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とある先輩社員の不動産契約について

2017年6月23日「金曜日」更新の日記

2017-06-23の日記のIMAGE
私が先輩社員・寺田さんの契約に連れていってもらったときのことだ。「それでは、これから重要事項の説明をしてまいります。宅地建物取引業法……」お客様の前で、寺田さんの読み上げが始まる。私にとって、契約時の同行はこれが初めてではなく、すでに数回経験していた。そのため、私の中でも、この光景はもはやお馴染みのものになりつつあった。それでも、むろんボーつとしているわけにはいかない。私は、寺田さんの横で重要事項説明書の写しを目で追いながら、抑揚をつける箇所、説明を付け加えている箇所などをメモしていた。……何ページ進んだだろうか。私はまばたきの回数が増え、どこまで文字を追っていたのか、分からなくなった。お客様の視線とページ数から、現在の進捗具合を確認し、耳から聞こえる内容と字面が同じ箇所をなんとか見つけ出す。(このままではまずい。未だかつてないほどの、睡魔との闘いだ……)とはいえ、もはや学生の身分ではない。お客様を目の前にして、粗相があっては格好がつかない。私は、ようやく着慣れてきたスーツの上から太ももをつねりつつ、やっとのことで重要事項の説明を耐えきった。だが、あくびを噛み殺しているところで、無情にも寺田さんが次の書類を手に取った。「続きまして、売買契約書を読み上げてまいります……」そう、まだ続くのである。しかも、この売買契約書の条項の読み上げと説明は、さらに睡魔が強力になる。複数のパターンがあるとはいえ、特約部分を除き、毎回ほぼ同じ内容だからだ。「……はい、以上が契約書の内容となります。何か、ご質問などはありますでしょうか?」寺旧さんが、締めの言葉に力を込めると同時に、机の下で私のふくらはぎを蹴飛ばしたことで、私は一気に目が覚めた。結局、睡魔に負けてしまったのである。契約終了後のことだ。「まったく、お前は俺の契約で寝やがって!」寺田さんは怒り心頭。弁解の余地もなく、私はひたすらに委縮するばかり。「すみませんでした……」謝りながらうなだれていると、私の肩に誰かの手がかかった。振り向くと、副所長のベテラン社員・吉川さんの姿があった。「ありや、途中から眠くなるからなあ」吉川さんは、にこにこしながら話を続ける。「俺もこの間の契約で、契約書読んでいる最中にうとうとしちゃったんだよ。「売主、買主の責めに帰すべからざる事由により……」とか説明してたら、眠っちゃってたみたいで。で、ハッと起きてさ、いけない!と思って、「す、すみません……」って顏を上げたらさ、売主の爺さんも寝てやんの!」その話を聞いた寺田さんは笑い、なんとなく空気がなごみ、私への怒りも収めてくれたようだった。「いいか?今度寝たら許さないからな!」「はい。以後気をつけます」フォローしてくれた吉川さんに感謝である。しかしそれからしばらくして、T不動産には、私の失敗をはるかに凌駕する大物が現れた。会社の営業部全体に、こんな通達が出たのである。「新人の迎転技能の見直しについて」なんと、別の営業所で働いている、私と同期の社員が車を大破させてしまったというのだ。だが、幸いにして体は無事だったと聞いたので、すぐさま彼に連絡を取ってみた。「ちょっと、聞いたよ!怪我とか大丈夫か?」「あ……話伝わるの早いね……。ありがとう。体は大丈夫」「いやいや、通達まで出てるからね!で、車が大破って聞いたんだけど、どういう状況だったの!?」「いや、事故の瞬間は記憶がないんだけど、ふっと眠くなっちゃって。気がついたら、車ごと引っくり返っててさ……」「何それ!それなのに、怪我しなかったの?」「うん。不思議と無事だった。シートベルトつて大事なんだね……」いや、それよりも大事なのは、睡眠時間の確保だろうと私は思った。空」のお客様「○○マシン」限定でお探しのお客様がいます!」「○○○○区の物件に、今月中の入居を希望されているお客様がいます!」このように謳われた、「売却相談求む」という趣旨のチラシをご覧になったことはないだろうか。物件の売却依頼を求めるためのチラシの文句はさまざまだが、ここで取り上げたのは、特に、他社から販売中の物件を狙うものだ。だが、これらの文句はほとんどの場合、「嘘」である。いや、チラシを作成した仲介業者からしてみれば、「(いつ買うか、いつ出てくるか分かりませんが)「○○マンション」限定でお探しのお客様が(世の中のどこかに)います」という意味では正しいということなのかもしれない。落ち着いて考えてみればすぐ分かることだが、「相場より高くてもいいから、すぐにでも特定のマンションや地城に住みたい」などという奇特なお客様が、そうそういるだろうか。

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