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家賃の異常な値上げはなぜ起こるのか

2018年3月2日「金曜日」更新の日記

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民間借家の家賃が上がっている。 最大の原因は、これまで続いてきた「地代家賃統制令」が1986年12月で廃止されたことによる。    「毎々御手数有難う御座います。 御送付の家賃10日に正に受取りました。 よって別紙領収書を送りましたので各自に御渡し下さいますようお願い致します。    さて去る58年に家賃改定されましたが、御貴殿方家貨は税金の上り分だけ上げて頂いて家賃××は先の55年の改定の時と共に値上げして居りませんので、もしも統制が無くなりました節には、戦後諸物価の上昇率に見合う家賃に上げさせて頂きますのでよろしく御協力下さいます様、今からお願いしておきます。     1986年3月2日各位」  これは京都府亀岡市内に住む家主が、大阪市生野区の長屋7世帯に送りつけてきた値上げ通知書である。 地代家貨統制令がある間は、固定資産税等の上昇分だけ値上げされてきたが、戦後の諸物価の上昇率に見合う値上げをすると通知してきた。 大変である。  これに対して借家人たちは、地代家貨統制令の廃止を理由にした家賃の値上げは監督官庁によって抑制されていることを理由に拒否しているが、値上げ通知は統制令がまだ廃止されていない1986年3月のことだから、これからはどんどん値上げされていく可能性がある。  地代家賃統制令は、戦後の住宅不足の中で地代や家賃が大幅に上昇することを抑えるために、1946年に制定された。 借家人の多くは土地や家を買い取り、その数は次第に減って、1983年には124万戸、全住宅戸数の3パーセントにまでなった。 政府は、住宅事情が改善されて統制令の目的も達成され、廃止されても国民生活にほとんど影響はないといって、86年13月末にこの統制令を廃止してしまったのである。  国民生活に影響は少ないというが、統制対象の借家の居住者には老人や所得の低い人が多い。 地代や家賃が大幅に上がると、これらの人は住み続けられないだろう。 これを担当する建設省は、都道府県など地方公共団体に対し、便乗値上げの防止対策、相談窓口の充実、公営住宅への優先入居などを指導しているが、肝心の統制令を廃止したのだから、効果の上がるはずはない。  統制令対象民間借家の家賃は現在急上昇し、借家人は3倍、4倍という値上げをつきつけられている。  本当に借家人の居住権を守るつもりがあるのなら、廃止しなければよいのだ。 地主・家主に対しては大幅な補助金を出し、借家経営者と借家人の両方を援助すべきだ。  これらの統制令対象の借家は、都市の中の便利な場所に密集して存在している。  たとえ、大阪市内には16万6000戸の統制令対象住宅がある。 そのうち、6000戸ほどは大阪駅に近い福島区に、大阪環状線と近鉄奈良線が交差する鶴橋駅に近い東成区に9700戸ほど、1万9000戸は生野区、天王寺駅のある阿倍野区に1万3000戸などと、都心に集まっている。 ここでは、他地区に比べて高齢で所得の低い人たちが大きな割合を占めている。  地代家貨統制令の廃止は、もうだいぶ以前から地主・家主が要求していたものだが、その影響の大きさからどの内閣も見送ってきた。 「行革」「民活」をとなえる中曽根首相は、これをついに実現させたが、おそらくこれで借家人は住み続けることができず、あとはオフィス用地・マンション用地などとして不動産業者に高く売られていくであろう。  地代家賃統制令を外堀とすれば、次に不動産資本と政府が狙っているのは、内堀ともいうべき借地借家法の「改正」である。現在は借地借家人自身が利用する場合などを除いて、借家人の退去を求めることはできない。 だが、この「改正」が行なわれると、建物の老朽化や土地の有効利川を立ち退きの理由にすることができ、借家人を追い出して都市再開発を進めることが容易になる。  しかし仮に少々の立ち退き料をもらっても、それで新しい家を見つけるのは困難だろう。一般の借地借家人だけでなく、豆腐屋、大工、魚屋、印刷屋、仕立て直し、そのほか「生業」として地域の人々との結びつきの中で日々の生活が成り立っている人たちも、大きな打撃をうけること になろう。 借家紛争も激増するだろう。  借地借家法が「改正」されると、零細な地主・家主も、大手不動産資本の土地入手の手先を務める暴力団がらみの不動産屋に脅され、人が住んでいる土地をそのまま買い取り居住者を追い出す底地買い屋の攻勢をよりいっそううけることになるだろう。 零細な地主・家主も結局は被害者の立場に立たされるのだ。 

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