住まいは人間とともに高齢化する
2018年3月4日「日曜日」更新の日記
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- 持ち家につきまとうもうひとつの問題は、建物の維持費である。
家を持ちたいという願いが大きいのは、家賃が安くて質のよい借家が少ないということのほかに、日本の社会保障制度がきわめて不十分なため、老後のいわば社会保障の代わりの役目を住居に求める人が多いからでもある。
家さえあれば、少ない年金でもなんとか暮らしていけるのでは、という思いが人々のあいだにはある。
だが、すこしでも安くと思って買った住宅は粗未な建築材料を使ったりしていて、20年も経たないうちに大幅な修理が必要となる。
しかし年金で暮らす老人には何十万円、ときには何百万円もの修繕費を負担することなどできない。
やむなく放置しておくと、家は急速に。
昔から持ち家に住んできた老人たちが今困っているのはこの建物の維持補修のことである。
狭い敷地上に建つミニ開発住宅の場合はもっと深刻であろう。
その老朽度はきわめて早いからである。
建物が悪いうえ、排水、通風、日当たりなどが不十分ためだ。
人間にとって不健康な家は、建物自身の健康にとっても悪いのである。
そのうえミニ閧発のなかには建ぺい率や容積率隣地境界線との距離が建築基準法に違反しているものがある。
建築戸数に対してそれを監督する行政側の人間が少ないから、見過ごされがちなのである。
こういう家は、建て替えようとしても同じ大きさは建築できない。
すこしずつ修理して住み続けるかない。
むろん売りに出しても買い手はない。
マンションの維持管理費は、居住者全員で負担なけばならないところに特徴がある。
最上階での雨漏りは最上階の居住者が、というわけにはいかない。
現在のマンションの質はピンからキリまで。
海砂やアルカリ骨材が使われていて、何年もつかわからないものもある。
一般的にいっても、必要な維持補修費は年とともに急増する。
人間のからだと同じである。
そのとき必要な費用を負担できないとどうなるか。
将来の大規模な維持補修のための、いわゆる計画修繕費をきちんと積み立てている管理組合はよいが、売りやすく、買いやすくするために管理費を低くしているところがむしろ多い。
人間とともにマンションも高齢化するこれから10年後、20年後には恐ろしい時代がやってくる。
今の日本は、国民も政府も企業も、目先の持ち家取得や業者の金儲けや安上がりの「住宅政策」しか頭になく、個人でも日本社会全体としても不良資産を抱えこみ、その後始末に厖大な金と時間と労力を必要とするつけを、将来=子孫にまわそうとしている。住宅のもつ危機をだれも意識していないのである。

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