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マイホームを棄ててこそ、浮かぶ瀬もあり

2019年2月25日「月曜日」更新の日記

2019-02-25の日記のIMAGE
私事で恐縮だが、50歳の私は、歳よりも若く見られることが多い。中学生の頃は大学生に間違えられるくらい老けていたのだが、「そういう人は、年をとってから若く見られる」という俗説を身をもって証明しているかっこうである。が、若く見られる理由はそれだけではなく、47歳のときに授けられた子供がいることの影響も大きいと思う。育てるべき子供がいると、体の中にエネルギーがわく。これはすべての生物に共通する生理反応だ。例えば、町中でケガをして泣いている幼児を見かけたときのことを想像していただきたい。一瞬にして鼓動が早くなり、手に持ったモノを放り出して駆け寄ってやりたくなる。そのときの人の脳には、きっとアドレナリンやら何やら放出され、興奮状態にあるはずだ。筋肉はいわば臨戦状態となり、自分でも驚くほど、体が軽く動く。子育てとは、このような"興奮状態"を低いレベルで長く維持している状態ではないだろうか。だから、子育ての時期にある初老の男が若く見られることもあるし、人によっては子育て時期の思い出から離れられないという現象も起きてしまう。では、子育てを終えると、一気に老けてしまうのだろうか。まさか玉手箱を開けた浦島太郎のように一気に老けることはないだろう。が、ゆっくり消えるように老けてゆくことはあり得そうだ。エンプティーネストで、子育て時代の思い出に耽っていると、そうなる可能性が高い。耽っている気がなくても、家の中には「思い出」があふれている。これは決して前向きな気持ちを生む環境ではない。捨てることができないものによって足を引っぱられている状況と言ってもよい。「だから、思い切って引っ越しました」という六十代初めの知り合いは、郊外の戸建てを処分し、都内の分譲マンションを購入した。新居は80㎡を超える広さだが、荷物が入りきらないとこぼしていた。長年住み慣れた戸建てを去るにあたり、家の中の荷物を半分は捨てたという。それでも、なお80㎡のマンションにあふれるほどの荷物を抱えていたのである。五十を過ぎた夫婦の住まいには、それほどの荷物があふれている。思い切って全部捨てようと決意してもなお、80㎡のマンションに収まりきらないほどに。子育てを終えた夫婦が常に前向きに生きていくためには、子育てに代わる活力源を得る必要がある。その一つとなるのが、住み替えであることは間違いない。エンプティーネストを捨て去り、恥ずかしいくらいモダンな住まいに移る。その際、まったりと生活臭がしみ込んだソファは捨ててしまう。新しいソファを探すという名目でウェストコーストに出かけ、見つけたソファを船便で送る。想像しただけでも、活力がわいてくるではないか

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